進路に悩んでいる高専生にも悩んでいない高専生にも

狩猟でも自衛隊でも高専で学んだことは役に立つ

「高専は歩いて30秒のところにあり、いつも身近な存在だった。スマードグリットの仕事をしたくて高専に入ったが、徐々に勉強についていけなくなった。」

堂野前(どうのまえ)さんは現在猟師をしている24歳。小さい頃から身近だった高専だが、それでも実際に入らないと自分が高専の勉強についていけないと分からなかった。高専をやめて専門学校を卒業したが、厳密な学歴は中卒。淡々と厳しい現実を語るとともに、優しく高専時代について話してくださった。

経歴

1993年8月3日生まれ

神奈川県川崎市出身

6歳で木更津に移り住む。木更津高専機械科3年次途中で中退。

中退後、医療系専門学校を経て自衛隊へ。2年間働いたのち趣味でやっていた狩猟を本格的にやることを決め、現在は合同会社房総山業を立ち上げ猟師として働いている。

高専は身近な存在だった

堂野前さんは、自分が入学するとは思わないまでも、小学生の頃から近所にあった高専を身近に感じながら過ごしていた。子供のころから自然が好きで、漠然と地球環境を守りたいという思いがあった。
中学の時には、地域に合わせた自然エネルギーによる発電や、蓄電装置を駆使して電力を地産地消する「スマートグリッド」に興味を持っていた。自然エネルギーの弱点である供給の不安定さを解決し、火力発電を減らすことが出来る可能性を感じたからだ。
そして、『一番最短でスマートグリッドに携わることができるのはどの進路か』考えた結果、高専の機械科に進むことを決めたそう。
理由の1つはスマートグリッドは既存技術の組み合わせであり、最先端の科学というわけではないため、大学で研究するというよりは高専で学んで社会に出る方が良いと考えたそう。
学科の決め手はそこまでなかったそうだ。

「学科は迷ったんだけどね。どの分野にも絡んでくるから当てはまる学科はないと思って、機械科で一番の基礎を学んで、あとは自分で学ぼうと思ったんだよ。」

高専で初めて理解できない授業に遭遇する。

高専に入った後、順調に行くように見えた1年生。そんな中、ある壁にぶち当たってしまう。

「高専の時はひたすら授業が難しかった。ドロップアウト組には多いと思うんだけど、小中の頃は頭が良くて、大して勉強しなくても理解できちゃった。だから、授業を受けているとき、意味が理解できないっていうのは初めての経験だったね。」

2年生くらいの時からこのまま続けたら卒業に6、7年かかると思ったと堂野前さん。そんな時、防災系のボランティアをやっていて、元々興味のあった防災や救急の業界に行きたいと思い始めたそう。
高専3年前の春休みに東北大震災があり、がっつりボランティアに行ったことでストレートでの進級が不可能になったこともあり、高専を中退した。
その後は救急救命士になりたく、まず自衛隊の試験を受けたが落ちてしまう。諦められなかった堂野前さんは高卒認定試験に合格し、県内の救急救命士養成校を卒業した後、改めて受け直し、自衛隊に入隊した。
しかし、自衛隊では救急救命士として働きたかったが、紆余曲折を経て格納庫でネジを数える仕事をすることになったそう。そんな時、救命士の専門学校時代の先生が会社を立ち上げることになり、それについて行くために自衛隊をやめた。

銃や罠についても色々と教えてくださった

会社はなくなり無職に。狩猟を仕事にする決意。

心機一転。会社立ち上げに参加するはずが、先生は会社をやめてしまった。
結果、無職となった堂野前さんは、知り合いの仕事や様々な会社を少しずつ手伝ってプラプラしつつ、どうしようか考えていた。そうした中、たどり着いた結論は趣味でやっていた「狩猟」を仕事にしようということ。
理由は「狩猟を始める前は高級なお肉、くらいにしか思っていなかった鹿や猪が獣害を引き起こしていて、社会問題になっている中、獣害対策のほとんどは猟友会によるボランティアに支えられている」ということ。
なぜ、猟友会に支えられているのが問題なのか。それは、猟友会の駆除隊は平均年齢60〜70歳であり、若い人たちは入ってきていない。あと5年もすれば猪は増えるのに、猟友会の駆除隊は消えてしまうかもしれない。
高齢の先輩方がいよいよやりきれなくなり、獣害対策が若者に引き継がれることになった時、年金があるがゆえにボランティアでもやっていける先輩方とは違い、若者が猟師としてフルタイムで活動するには仕事として成り立っていないといけない。また、そのためには誰かがお金を稼げる仕組みを作らないといけない。
ちょうどやることがなかった堂野前さんは自分がその仕組みを作ると決めた。

そんな堂野前さんの理念は「持続可能な狩猟体制を築くこと」
おじいさんたちが趣味やボランティアで狩猟するのではなく、若者たちの進路の選択肢の1つとして、猟師があるような稼ぎのある職業にしたい。
そんな気持ちをもって日々、猟師として活動しているそうだ。
もし将来、猟師が魅力的な職業の1つだと認知されるようになれば、農業従事者は獣害の心配をせずとも農業に専念できるはず。そんな世の中になってほしい。

これからの猟師について思いを語ってくれた

高専で学んだ考え方は今でも役に立つ。しかし、誰でも高専に入っていいとは思えない。

堂野前さんは自分を「仲間に恵まれていた。運が良かった」と言う。

「仲間は多かったね。中学の時より話が合うやつ、趣味が合うやつが多かった。勉強にはついていけなかったけど、楽しい時間は多かった。3年で辞めたのに、卒業式の後の集まりにも呼んでくれたし、今でも高専の友達とはよく話すよ。」

高専では気の合う友と出会うことができた堂野前さんだが、技術的な考え方を学ぶことができたのも大きいという。

「今は全然関係ないことやってるけど、技術者的な考えかたとかは高専で身についたね。
辞めてすぐは高専での経験は役に立たないと思ってたけど、自衛隊に行っても、狩猟でも役に立ってる。トライアンドエラーの考え方とか物事の仕組みを理解しようとする考えとかだね。
救急救命士の時もそう。医療機器とか救急の資器材って複雑で種類も膨大なんだよね、他の人は仕組みを理解して使ってないけれど、自分は分かるから、飲み込みとか上達が早かった。
救急の現場ではマニュアル通りの操作を練習はしているけれど、根本を理解していない人が多かった。だから、壊れた時とかにどうすればいいとかイレギュラーに対応できなかったりする。自衛隊でもそうだった。そんなとき、根本から理解できていると自分で考えて対応できる。今思うと高専で学んだことは決して無駄ではなかったね。
さらに狩猟では、木更津高専の後輩でIoT罠の望月君とか、ドローンで獣害対策をしようとしてる会社さんとかとも協業していて、ここではもろに役に立ってる。」

高専に入ったことによって良かったことを語る一方で、最後にはだからと言って誰でも高専に入ればいいとは言えないと語ってくれた。

「エンジニアになりたい人じゃないと自分みたいになるのは目に見えてるからね。たまたま仲間に恵まれたし、自衛隊もやりたいことだったから良かったけど、誰でもそううまくいくとは限らない。
高専的な考えを普通高校で伝える場所や授業が少しあってもいいと思う。高専に来るのはエンジニア志望以外はナンセンスだと思うけど、それならみんなが色々得られていいと思うな。」

仲間や考え方が得られたことなど、高専の良い部分を語る一方、だからといって高専は誰でも来ていい場所ではないという。高専以外で「高専的な要素」を教えていくことが大事だと冷静に分析する堂野前さんは学歴では中卒となっているとは思えなかった。

「中退というとどうしてもマイナスイメージだけれど、全部自分で決めたことだから後悔はないよ。1年でも2年でも高専で学んだことは必ず人生の役に立つし、寄り道したり進路変更したりも僕はアリだと思う。悩んだら自分のやりたいことをやろう、案外中卒も悪くない。」そう言って堂野前さんは笑っていた。

取材・執筆:大久保和樹
写真:北原和也・大久保和樹
取材協力:合同会社房総山業 www.bososangyo.com
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