進路に悩んでいる高専生にも悩んでいない高専生にも

K-SAMIT イベントレポート1(開会〜登壇2)

2018929日、「K-SAMIT2018 ~全国高専同窓会~」が開催されました。「高専に関わる人すべてが交流できるイベント」としてはじまったこの同窓会。エンジニアに限らず様々な分野で活躍する、高専出身著名人の方々の濃密な体験談、そして熱い意見が交わされたパネルディスカッションの様子をこの記事で余すことなくお伝えします。

記事が長くなる関係で3記事に分けてお届けします。

開会挨拶、アイスブレイク

会場の恵比寿ガーデンプレイスタワー11階、株式会社コロプラのセミナールームに集まった現役高専生、OBOGは総勢70名。「専門・バックボーンの異なる高専生同士の対話を通して、自らのキャリアについて考えるきっかけにして欲しい」というZENPEN代表・森本さんの挨拶で幕を開けた。

トップバッター、アイスブレイクのセッションに現れたのは、ライトノベル作家の藍月要さん。小山高専を卒業後、ファミ通文庫より「俺たちは異世界に行ったらまず真っ先に物理法則を確認する」を出版しデビュー。同書4巻を今年の7月に出した現役バリバリのエンタメ作家だ。

PCの準備を終えた藍月さん。マイクを片手に、静かに語りだす。

「幾年前の、ことでしょうか

ざわつく会場。その一言から、会場は一気に藍月ワールドに吸い込まれる。

「それでは聴いてください。藍月要で、高専ラップミュージカル!」

突如としてはじまるラップ。高専生であればどこか引っかかるフレーズが矢継ぎ早に繰り出される。

「テストの点数、59! 必修科目、ご臨終! すぐ隣にある留年(コンティニュー)!」

いつの間にかマイクを置き、セッション会場を縦横無尽に駆け回る藍月さん。ラップは途中からミュージカルに変わり、その美声がスペース全体に響き渡る。

「本当に~欲しいのは~単位じゃない~♪ 本当に~欲しいのは~♪ エゲーをやる時間だッ!」

無限の笑い声と歓声、そして拍手。ホカホカに暖まった会場で、藍月さんは「+エンタメのススメ」というセッションの本題へと切り込む。

「わかりやすいプレゼン、それ自体はすごく良いモノ。だけど、伝えたい知識を長く記憶に留めてもらうにはそれだけでは足りない」

 ”分かりやすい”ことは、”記憶から抜けやすい”ことと表裏一体である。藍月さんはそう語る。そして、誰かの記憶に留めてもらうためには、プレーンな知識に感情を付け足し、”知識”を”体験”へと昇華させることが必要なのだと。

 前半の「高専ラップミュージカル」は、正にその実践例だった。120%で自分が面白いと思ったことに振り切り、エンタメを付与することで自分の知識や経験を誰かの記憶に残してもらう。この行為そのものが、自分の足跡(キャリア)を築くことにつながる、藍月さんはそう結論づけた。

「人を楽しませる」ことを仕事にしてきた、藍月さんの経験がダイレクトに反映されたセッションだったことに異論はないだろう。マイノリティが集まる高専の中でも、更に希少でユニーク。そして、後に続く方々の講演の見え方が大きく変わるオープニングだったと思う。

登壇1: 普通の高専生が普通に会社を創るまで by 渋谷修太

続いて壇上に立ったのは、フラー株式会社CEOの渋谷さんだ。長岡高専出身の渋谷さんは、編入学した筑波大学で経営工学を学び、卒業後にソーシャルゲーム全盛期のGREEでマーケティングの仕事に従事。その後、2011年に独立、フラーを創業したという経歴を持つ。

 渋谷さんは、経済誌『Forbes』の「アジアを代表する30才未満の30人 (Forbes 30 Under 30 Asia)」に選出された経験もお持ちなのだが、同時に選ばれた他の日本人を並べると、そのすごさが分かるだろう。

そんな渋谷さんは、「日本発で世界一と言えるような会社をITの世界でも創りたい」というビジョンの元、スマホビジネス共創事業とアプリ分析支援事業の2つを軸にフラーの経営を行っている。起業のきっかけとなったのは、18歳の時に出会った「ハーバードMBA留学記」という1冊の本だという。

「さぁ教えてください。一度しかない、ワイルドでかけがえのない人生を、あなたはどう生きていくのですか?」

 この有名なハーバードの教えに感化され、それから編入学のために猛勉強。編入学後には、アルバイトで貯めたお金でシリコンバレーへと赴き、大学のキャンパスのようなオフィス環境、そして中で働くエンジニア達の生き生きとした姿に強い衝撃を受けたという。今のフラー本社が千葉県柏市の柏の葉にあるのも、この時目にした環境に近づけたいとの思いが込められているのだとか。

 フラー創業後、最初の大きな資金調達を成功させた時の話も非常にユニークだった。

「日本の会社に投資をしたがっているVCの人がいるから、明後日ロンドンに来て欲しいと呼び出された」

「初めての英語のプレゼン資料を飛行機の中で作った」

「移動中の48時間でプロトタイプを作り上げ、プレゼンで披露した」

 恐るべきスピード感、そして渋谷さん自ら「奇跡だった」と語るエピソードだが、この奇跡を現実にしたのは、たった48時間でプロトタイプを作りあげた高専生の技術力だった。「モノを作って見せることがみなさんの最大の強み」なのだと、渋谷さんは最後に語ってくれた。

 高専在学中から経営者を志し、夢に向かって最短距離で邁進する渋谷さんは、多くの人が描く王道の経営者そのものだったように思う。そして、発表中も常に笑顔を絶やさず、一度しかない人生を全力で楽しんでいる姿は、いち聴衆の僕ですら計り知れないエネルギーを得ることができた。

登壇2: 高専生のためのこの先生き残るためのキャリア設計 by 関喜史

3人目の登壇者は、株式会社Gunosy共同創業者の関さんである。関さんは、富山商船高専から東京大学に編入学した後、人工知能研究の第一人者・松尾豊先生の研究室でWebサービス上のユーザー行動分析等をテーマに研究活動に従事。2011年に未踏クリエイター認定を受け、2012年に株式会社Gunosyを創業。社会人として働きながら博士を取得するなど輝かしい経歴を歩んできた方だが、自身のキャリアに対し意外にも「行き当たりばったりだった」と語った。

 中学、そして高専入学後すぐは深夜にポトリス、ラグナロクオンラインなどに入り浸る「ネトゲ廃人」だったという関さん。ギルド内の揉め事により、モチベーションが大きく削がれたことでネトゲ廃人から脱却した後、自らの将来に不安を感じ、進路に関する情報を集めはじめたそう。その情報源は、なんと2chの学歴板・就職板である。

 「SEはブラック」「高専卒はダメ、大卒者にひたすら使われて出世競争に勝てない」「東大以外は大学ではない」。そんな過激な意見を真に受け一念発起し、1年間勉強漬けの生活を経て東大合格を勝ち取った。

 編入学後も、すぐに起業や博士といったワードが浮かんだ訳ではなかった。学生生活前半は一般の学生と同じようにサークル活動を楽しみ、研究室配属で松尾研を選んだのも「プログラミングができそうな研究室がそこしかなかったから」、最初にサービスとしてGunosyをリリースしたのも「夏休み暇だったから」、博士過程進学を決めたのも「先生に誘われたから」。確かに”行き当たりばったり”という言葉通りではあるが、「眼の前の面白いことに全力で取り組むことが大事だった」とこれまでのキャリアを振り返って気づいたという。

 「ある程度高い目標を立てて行動を起こし、形になるモノを残す」、関さんが自らの人生で強く意識していることだ。起こした行動で積み上げた結果、作った成果物、これらの積み重ねが社会における信用につながり、信用が大きくなるほど自分のやりたいことができるようになる。そして関さんは、「成果としてモノを作る能力と工学の基礎、両方を備える高専生はとても強い。更に、モノを作ることがやりやすく、かつ成果として認められる社会になりつつあることが大きな追い風だ」と結論づけた。

 渋谷さんとは、正反対ともいえるスタンスで歩んできた関さん。しかし、「目標を立て、行動し、結果を残す」というシンプルで、あらゆる分野に応用できるサイクルをネトゲ廃人時代まで見つめ直し、発見したと語る姿が印象に深く残った。自らのことを冷静に、ロジカルに、そして客観的に振り返り、経験全てを次に活かすその姿勢は、正に高専生がたどり着く1つの到達点と言えるのではないだろうか。

 

 

イベントも後半戦。
ここからは第2回のイベントレポートで掲載します。

執筆:にしこりさぶろ〜

編集:大久保

 

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