進路に悩んでいる高専生にも悩んでいない高専生にも

高専を中退して慶應SFCへ。チャンスは都会に転がっている。

現在、慶應義塾大学 環境情報学部の3年生(取材当時は2年生)で、C-Style株式会社のCEOを務める瀬島大生さん。(@sejimabaruki)

瀬島さんは、米子高専の電子制御工学科を3年で中退し、慶應義塾大学に進学。2020年2月にC-Style株式会社を創業し、現在は、ユーザが声と時間を有効活用できるサービスを提供するべく準備を進めています。

そんな瀬島さんに、高専中退を選んだ理由やSFC(※)での生活、準備中のサービスの概要などについて伺いました。

※慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパスのこと。このキャンパスには総合政策学部、環境情報学部、看護医療学部、政策・メディア研究科、健康マネジメント研究科が設置されているが、「SFC」という言葉は総合政策学部と環境情報学部のことを指して使われることが多い。

聞き手:渡邉弘大

高専の精神に憧れて入学を決意

ー まず、瀬島さんが高専に入った理由を教えてもらえますか?

中学生の時、学校に高専のマンガ(松江高専が制作している、エンジニア×エンジニアというコミックシリーズのこと)があったんですよ。いろいろな学科出身の人がモデルになっているんですけど、電子制御工学科出身の方(フラー株式会社創業者の渋谷修太氏(@shibushuta))がモデルのマンガを読んでみたら、自分でアプリを作って、会社も作ってしまうっていう内容だったんですね。それで、高専のなんでも自分たちで作ってしまおうという精神に憧れて、僕もアプリを作って会社を興したいと思って高専の電子制御工学科に入りました。

ー そのマンガを読むまでは進路についてはあまり考えていなかったんですか?

マンガを読むまでは普通科の高校に進学して、大学は情報系を目指したいなと漠然と考えていたんですけど、高専について調べる中で高専生は、普通科の高校に進学した人に比べて、圧倒的に早く専門分野を学び始めることができるということを知ったんですね。僕は少しでも早く専門分野を学びたかったので、普通科の高校に行くっていうのはちょっと不利に思えてしまって、高専を選びました。

ー それで高専を目指して、見事合格したわけですが、実際に入ってみてどうでしたか?

思った以上に勉強がハードだなと思いました。でも、そんな中でも個人や研究室単位でプログラミングコンテストに出たりとかして課外活動を頑張っている人もいたので、やっぱり高専に入ったらこういう人たちと関われるんだなと思って、刺激をもらっていました。

ー それで実際に高専プロコンなどに出場されていたと思うのですが、それによって得られたものはありますか?

かなり根性はついたと思います(笑)試験勉強との両立をするために、睡眠時間を削って学校の勉強とコーディングをしなければいけなかったんですよ。ちなみに、その時の試験はひどい点数でした(笑)

「チャンスは都会に転がっている」。格差を感じて中退へと舵を切る

ー 話を聞く限りだと、順調にプログラミングを学んでいたという印象を受けるのですが、なぜ中退しようと思ったんですか?

プロコンなどの課外活動が増えてきて、その中で都会の高専の人と話すと、自分と同じくらいの歳なのにもうインターンをしている人がいたりしたので、自分もそういうことをしたいなと思って、県内の企業をいろいろ調べたんですよ。だけど、求人がなくて。それで「あ、これ地方格差だな。やっぱりチャンスは都会に転がってるんだ。」って思って、そこで、職やエンジニア界隈の人などを求めて、高専を中退して都会に出るという決断をしました。

ー その決断をしたのはいつですか?

割と早い段階でしたね。僕が高専プロコンの本戦に行っていろんな人と話をしたタイミングなので、1年の10月ぐらいですね。

ー 早いですね。中退を考え始めてからはどのように動いていったんですか?

高専のカリキュラムは普通高校のカリキュラムと違うので、(大学の)一般入試を受けてもたぶん他の受験生には太刀打ちできないだろうと思い、できる限り高専の強みを活かして受験できる方法を模索していました。その中で、AO入試とかだったら今やっていることをさらに突き詰めて、それをアピールして受験ができるんじゃないかと思ったので、それからいろいろなイベントやインターンに参加したり、コンテストに応募したりしていましたね。僕は今までこういうことをやってきましたというのが言えるように、とにかく実績作りをしました。

僕が行ったインターンは就活で来ている人が多くて、周りは大学生ばかりだったんですけど、自分1人で開発するのと違ってレビューをもらえるし、周りの人がどんなコードを書いてるのかとかも見れるしっていうので、たった1週間だったんですけど、自分で半年間勉強した分くらい得られるものがあったんですよね。だから僕は高専低学年でも積極的にインターンとかに参加した方がいいと思います。

ー 中退に向けて、かなり早い段階から準備していたということですね。
そのようにして実績を作っていって、見事慶應SFCのAO入試に合格されたということなんですが、他にもAO入試を行っている大学がいろいろある中で、なぜSFCにしたんですか?

SFCは「問題発見、問題解決」を理念としているんですけど、それって僕がアプリ開発をする理由と同じだなって思ったというのが大きいですね。僕も、世の中にある問題をアプリやIT技術を用いてできるだけ解決したいという思いでアプリ開発をやっていたので、自分のビジョンとSFCのビジョンってかなり似ているものがあるなと思って、受験することを決めました。

ー アプリを通して問題解決をしたいということなんですが、具体的には、受験までにどのようなアプリを作ってきたんですか?

1年生の時にはネットワークがダウンした時でも使える緊急時所在安否確認システムを作りました。2年生の時には、お年寄りなど、スマートフォンやタブレットの操作に慣れていない方でも簡単に近くのお店を検索できるようなグルメ情報アプリを作りました。3年生の時には研究室に所属していたんですけど、先生がすごくお忙しい方で、研究室に行っても対応してもらえなかったりとか、いなかったりとか、頻繁にそういったすれ違いが起きてしまって。それも非効率的だなと思ったので、先生の在室状況と、今どれくらい忙しいかを共有できるアプリを作りました。また、そのアプリ内で研究ノートなどを提出して管理できるようにしました。

ー 3年生の時に研究室に所属していたのも実績づくりのためだったんですか?

実績作りというのもそうですし、その研究室は生物系の研究室なんですけど、研究室の先生に話を聞きに行ったら、僕が持っている情報技術と先生の研究室で蓄えている生物学のノウハウをコラボして活動していったら面白いんじゃないかって言われて。それって確かに分野融合みたいな考え方で面白いなって思って入りましたね。

ー それから、本格的に研究室での活動をスタートしたわけですね。
分野融合という考え方が面白いなと感じて所属することを決めたということなんですが、その時からSFCの分野融合という側面を意識したりしていましたか?

世の中のサービスをいろいろ見ていてもITの技術だけではやっていけないサービスがかなり多いなと思っていて。例えば医療系のアプリだったら医療の知識が必要なわけで。情報系のサービスって、情報技術を使って何かを解決しようっていうものじゃないですか。なので、情報系の技術はもちろん、対何かに対する理解とかそういうものを受け入れる柔軟性や思考力を鍛えなきゃいけないなって思って、その当時から意識はしてましたね。

※瀬島さんは渡邉と同期で、高専3年次には同じ研究室に所属し、共にSFCを目指していました。結果、渡邉は落ちて別の道に進むことになったわけですが、その話はまた別の機会に。

ー 情報技術単体だと、「何か」の部分がないから問題解決がなかなかできないということですね。
そんなわけで3年の時は生物系の研究室に所属して活動をしていたということなんですけど、具体的にはどういうことをされていたんですか?

基本的には生物系の研究をして、学会で研究成果を発表したり、さっき説明したようなアプリを作成したり、研究資金を取ってきたりして活動していましたね。

ー その時やっていた研究は、どういう内容だったんですか?

卵の内側についている薄い皮の膜のことを卵殻膜っていうんですけど、その卵殻膜を燃料電池に応用して、尿素などのいろいろな燃料で発電ができるような装置を作っていました。

ー その研究の結果というのは、どんなものだったのでしょうか?

僕だけの成果ではないですが、研究室での成果として尿素での発電によってLED点灯程度の電力を生み出すことができました。尿素で発電できるということは例えば砂漠とかでも自分の尿を使って発電ができるということなので、すごいことだと思います。

高校生バイオサミット in 鶴岡で研究成果を発表している様子

SFC受験時のエピソード

ー その研究成果を学会で発表して、そこで取った賞とそれまでの実績をアピールしてSFCのAO入試を受験されたわけですね。学会で優秀な成果を収めたので1次選考は免除で、2次選考の面接を受けられたと思うんですけど、面接の雰囲気はどうでしたか?

僕の場合、かなり圧迫面接でした。「君、高専にいた方がいいんじゃないの?」とかかなりキツいことを言われたんですけど、なんとか乗り切ることができました。

ー それを言われるのはかなり辛いことだと思うのですが、その時は落ちたらどうしようというのは考えなかったんですか?

実は高専って普通高校に比べていろんな保険が効いてるんですよね。もちろん普通に進級して就職したり大学や専攻科に進学するのもありですし、僕みたいに3年で中退するのもありだと思います。僕の場合は、そこで落ちたとしても高専内で進級すればいいと思っていたので、冷静に対処することができました。

ー なるほど。ちなみに、その質問にはどう答えたんですか?

本当にリアルに答えました。地方だとチャンスが少ないっていうのも答えたし、「僕、間違えて今の学科に入ったんですよ!」って言って。オープンキャンパスの時に、プログラミングがやりたいっていうのを電子制御工学科の先生に言ったらじゃあうちだよって言われて、「そうなのか!電子制御工学科に入ったらプログラミングがめちゃめちゃ勉強できるのか!」って思って入ったらやってることは回路とか計測とかハードウェア系ばっかりで、僕はもっとコンピュータサイエンスなどを専門にやっていきたいので、高専では自分のやりたい勉強ができないって言いましたね。

ー そうなんですね。面接を乗り切って見事合格したわけなんですが、勝因はありますか?

僕の場合、受験とコンテストが被ってしまったのでできる限りコンテストの発表順を後ろに下げてもらったんですけど、それでも間に合うかどうか分からなかったので、面接の途中で「すみません、僕、これからコンテスト控えてるんでちょっと巻いてもらっていいですか?」っていう、普通ならやらないような発言をしたんですよ。その発言をすることによって、受験という人生の転換期を棒に振ってまで自分が今やっているプロジェクトに振り切れるという姿勢をアピールすることができて、そこが評価されたのかなと思いました。半分確信犯で言った部分もあるんですけど(笑)。面接中での勝因はそこなんですけど、それ以外で言うとやっぱり1年生からプログラミングを続けてきたということと、その結果がいろんな形で表れたということですね。

元高専生から見たSFC

ー SFCのことから少し話がそれてしまったんですけど、SFCに合格して、実際に通うことになったわけですが、SFCでの生活っていうのは入学前に思い描いていたのと比べてどうでしたか?

やっぱり、思い描いていた通りだなっていう感じでした。高専はきっちり組まれたカリキュラムに沿って学んでいったらいい技術者になれるっていう形になってるんですけど、逆にSFCでは自分でカリキュラムを組むっていう雰囲気です。例えば法律を学びながらプログラミングも学んだりできるので、自分に合った独自のカリキュラムが組めるっていう点で、やっぱり僕がイメージしてたSFCだなっていう印象を受けますね。

ー SFC以外の大学でも他学部の授業を取ることができると思うんですけど、それと比べても圧倒的に自由度が高いということですか?

必修科目がとても少ないので、圧倒的に自由度が高いです。確かに他の大学でも他学部の授業を取ることはできるんですけど、自分の学部の必修科目が多すぎるせいで、実は他学部の授業ってあんまり取れなかったりするんですよ。それに対して、うちの場合は必修科目が少なくて、どんな分野の授業を取っても単位になるので、いろんなことを総合的に勉強できるんですよ。その分専門性は少し薄くなるかもしれませんが、いろんなことを学べるという点ではかなり自由度が高いと思います。

ー 自由度が高い分、なんとなくで入ってしまった学生は大変そうですね。

そうですね。自分でカリキュラムが組める分、4年間楽な授業ばかりを取って卒業するっていうことも可能なんですよ。そういう風に楽だからって自分が好きでもない授業を4年間取り続けても4年後の自分って多分何者にもなってなくて、ただの大学卒業した人だと思うんですよ。だから、SFCはカリキュラムの柔軟性がある分、こうなりたいという自分の未来像が描けてなかったら大変なことになるのかなって思ってます。

「最終的には、地方の高専を盛り上げたい」。起業を通して実現したい未来

ー 今はSFCで何をされているんですか?

自分で会社を興してサービスを作りたいなって思って、いろいろと動いています(現在は資金調達をして、C-Style株式会社を起業している)。ざっくり言うと、登録ユーザの声と時間を有効活用できるサービスを作りたいと思っています。音声版のメルカリだと考えてもらえばいいと思うんですけど、ゲーム業界には、パパ活のようなことをしているユーザがけっこういるんですね。そういう活動はTwitterやInstagramなどのサービスで行われることが多いんですけど、それらのサービスはそもそもそういうことを想定していないので、DMなどでセクハラまがいのことが行われている現状があります。そこで、我々は配信者のための安全装置の付いたサービスを作ろうと思っています。台湾の方ではこういうサービスが流行っていて、サービス内だけで生計を立てるユーザーが増えているので、弊社ではそれの日本版を開発しています。

ー 確かに海外ではそういう動きがありますね。

ちなみに、弊社のメンバーの8割から9割は高専生で構成されています。さっきも触れたように、自分が高専生だった時はスタートアップの実務などに関われるチャンスがなかったので、これから積極的に高専生とのつながりを強めていって、かつての僕と同じような状況にある高専生たちの悩みを解決しながら、彼らと一緒に挑戦し続けていきたいなと思っております。

ー ということは、リモートでの業務を行っているということなのでしょうか?

そうですね、基本的にはフルリモートでやらせていただいております。それゆえに、南は中国・四国地方から北は東北地方まで日本全国の高専生に協力していただいています。そうした活動を通じて、会社として地方の高専を盛り上げていければと思います。

今後の展望を語る

「高専はすごい」。だからこそ活かさなければいけない

ー 先ほど、元高専生から見たSFCについてお聞きしたんですが、逆にSFC生から見た高専というのはどのような感じなんでしょうか?

SFCで周りに「僕、元高専生です」って自己紹介した時に、エンジニア界隈じゃない人には「え?高専?なんなのそれ?」ってけっこう言われちゃって、「高専ってそんなに知名度なかったのかな…」って残念な気持ちになることもあったんですけど、やっぱりエンジニア界隈の人たちに「僕、元高専生です」って言ったら、「え!?高専生?めちゃめちゃ優秀なんでしょ?」みたいなことを言われたので、ちゃんとそういう界隈の人たちには伝わってるんだなっていうのは思いました。エンジニア界隈の人たちはみんな高専生は優秀って言うし、中退しても高専生として扱ってくれるんですよね。

ー なるほど、ありがとうございます。最後に、現役の高専生に向けてアドバイスをお願いできますか?

地方の人もそうじゃない人もせっかく高専っていう、早い段階から専門分野について深く学べるすごくいい環境で勉強できているので、その環境を活かして、自分の得たものをもっとアウトプットして欲しいなと思います。高専生は内に閉じこもりがちなところがあると思うので。僕も自分で勉強したことをアウトプットした時に地方と都会の格差を感じたりとか、自分の書いたプログラムの改善点が見つかったりとかしたので、アウトプットはすごく大切だなと思います。あとは、高専で5年間一緒に過ごした仲間って大人になってもかけがえのない友達になると思うので、大人になっても高専時代の人間関係を大切にしてほしいなって思います。僕も中退はしてしまったんですけど、帰省するたびに高専に顔を出したりして、高専で築いた人脈や仲間を大切にしています。

同級生の卒業式(新型コロナウイルスの影響により中止)が予定されていた日に高専に駆けつけ、撮影

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高専に入った理由から今後の展望まで幅広く、熱く語ってくれた瀬島さん。個人的には、「高専は普通高校に比べていろいろな保険が効いている」という言葉が印象的で、高専は保険が効いている分、普通高校に比べていろいろなことにチャレンジしやすい環境なのかな、と思いました。現在低学年の皆さんは、ぜひこういった選択肢も頭に入れていただければと思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。皆さんが、「高専に入ったから就職か理系編入」という固定観念にはまらず、自分で納得できる進路を選ぶために、この記事の内容が一助となればとても嬉しく思います。


取材・執筆:渡邉弘大
編集:若林拓海

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