


【イベントレポート】高専キャラバンの2日目に参加してみた。

【イベントレポート】高専キャラバンの1日目に参加してみた。

イベントも後半戦。「高専生がベンチャーを選んだワケ」というテーマでのパネルディスカッションには、4名がパネリストとして登壇した。
高専を卒業後、敢えて大企業とは異なる環境へと飛び込んだ4名。テーマの「なぜベンチャーを選んだのか?」という問いに対し、永嶋さんが最初の口火を切る。
「高専卒業後、最初に就職した会社なんですが、富士通系の流れを汲んでいるところでした。なので大企業にありがちな、1年に渡って続く研修やスピード感のなさをすごくダルく感じてまして」
そんな永嶋さんは、ある時外部のベンチャー企業へ出向する機会があり、ベンチャーの空気感の中で仕事をする時間を得られたのだという。
「気づいたら、もう元の会社には戻れない身体になっていました(笑) 『そろそろ戻りますか』という話になった時、『いやもう、無理っすわ』、みたいな(笑)」
この経験談に呼応したのは、当時絶大な勢いで事業を拡大していたGREEでの仕事経験を持つ渋谷さんだ。
「『起業するぞ!』ということは高専時代から描いていたんですが、それとは別に昔から憧れていた大企業があったんですよ。だから、『ファーストキャリアはそこにしよう』って当時は決めていたんですよね」
渋谷さんの選択を大きく変えたのは、筑波在学中のインターンシップでのある出来事だ。
「憧れの大企業とGREEのインターンシップ、両方とも行ったんですが、圧倒的にGREEの方が面白かった。中の社員の人達も、明らかに楽しそうに仕事をしていて。1番衝撃的だったのは、大企業の方のインターンシップで、その会社への愛を熱く語ったんですけど、社員の方に冷たい目で見られちゃいまして。『あぁ、こういう時代なんだな』って思いました」
大企業とベンチャーの大きな違い。高瀬さんはそれをシステムの面から分析する。
「上場企業の大きな特徴は、基本的に赤字を出すことが許されないこと。例えば、新規事業を立ち上げるにしても、『3年後にその事業は何億円儲かるんですか?』って株主に聞かれるんですよ。そんなこと分からないですよね(苦笑)」
一方でベンチャーは、株式を非公開にしているおかげで自由が効く。だから、世の中を大きく変えるような新しい事業が生まれやすい構造にある。
「だけどベンチャーも、VC(ベンチャーキャピタル)の中にいるもっと怖い人達にキリキリ詰められたりすることもあるし、必ずしもベンチャーが絶対ってことでもないんですよね」
高瀬さんの語る、株主やVCの存在。実際に事業会社から資金調達を受けている渋谷さんも「すごく難しい、ケースバイケース」と言うように、2つの全く真逆の経験談が語られる。
1つ目は松永さんから。
「僕の場合は、幸運にも会社のことは全部僕に任せてくれますね。それこそ、株主やVCにめっちゃ詰められて意思決定を妨げられるなんて、都市伝説?と思うくらいで」
それとは真逆の経験を持つのは永嶋さんだ。
「以前いた小さい会社で、経営陣とVCがすったもんだしている様子が目に入ってしまうようなことがありましたね。それが原因で人が辞めたりしてしまうとやっぱりつらいですし、ある日VCの人がやってきて、事業の進め方に対して社長や役員すっ飛ばして何故か僕が激詰めされるなんて事件もあったりして(苦笑)」
生々しい、様々な経験談に盛り上がるパネルディスカッション。多くの経験が聞けるということはつまり、ベンチャーの世界に多くの高専生が身を置いている証拠でもある。
「当然かもしれないけれど、今は歴史上1番ベンチャー界隈に高専生がいる時代」
渋谷さんの言葉に、その場の全員が頷く。渋谷さんが高専を卒業した10年前は、ベンチャーに集まるのは大企業からの転職がほとんどだったそうだが、今では渋谷さんや関さん、jig.jpの福野さんやさくらインターネットの田中さんのような、高専におけるパイオニアを中心に集まるようになりつつあるのだという。
大企業以外の選択肢が増えた良い変化。その反面、未だに残る問題へと話題は移る。
「高専からの進路ルートの可視化が必要そうですね。最初の進学・就職先は記録に残っているだろうけど、その後休学や退学、転職して『どうなったんだ、結局?』みたいなところ」
渋谷さんの言葉から、松永さんが話題を広げる。
「都内の大学生って、1~2年生の段階で既にインターン行ってる人、多いんですよ。対して高専生は、卒業するまで外の世界を知らないままじゃないですか。どんな経路でベンチャーに入ったかみたいな話も知らない、周知されてないだけで、これを改善するだけで大分違うんじゃないかなと」
ただでさえマイノリティの高専生。そして大企業と比べると、どうしても広報・知名度の面で劣ってしまうベンチャー企業。両者の距離を縮める案として、高瀬さんが『未踏名鑑』を例に挙げた。
「僕や関さんも選ばれた『未踏クリエイター』なんですけども、これに選ばれると、今までの経歴や実績、また現在どこで何をしているかが『未踏名鑑』というデータベースにまとめられるんですね。これ、すごく便利で、自分の実績を見せるだけじゃなく、外部の人も声をかけやすくなったりするんですよ」
※未踏名鑑HP: https://www.mitou.org/people/
※上記HPの内容がまとめられたScrapbox: https://scrapbox.io/mitou-meikan/
「こんな感じで、ある程度の範囲のキャリアはネット上で可視化させておくと面白いんじゃないかなと思いますね」
ここで渋谷さん。
「高専卒のキャリアパスの可視化、やりましょう!」
CEOの鶴の一声に、会場が歓声に湧く。実現すれば、全ての高専生に対するインパクトはとてつもなく大きいだろう。
トークはそのまま、ベンチャーに飛び込む上での最後の課題へと移る。ズバリ、「周囲への報告」問題である。
「『高専生の親』問題って、どうなんだろうって。松永さんとか、どうです? 起業することをどうやって説明したのか」
渋谷さんの問いに松永さんが答える。
「僕は学部4年の時に起業したんですけど、最初親はてっきり大学院にいくものだと思っていて。そこで、まず『院に行かない』っていうことの説得にめっちゃ時間取られました。で、院に行かないことを決めた後に、親は当時バイトしてたGunosyに就職するとてっきり思っていたので、『会社作った』ってことは後になって報告したんですよ」
人生の重大なイベントにも関わらず、まさかの事後報告。会場に笑いが起こる中、高瀬さんの援護射撃が加わる。
「いや多分、人生事後報告って大事だと思うんですよね。僕も、親に対してはフラー創業時コミットしたことも事後報告だったし、結婚した時も事後報告だったし、今市役所で働いてることは言ってないし」
聴衆が爆笑の渦に包まれる。しかしそれだけでは終わらない。高瀬さんがしっかりした口調で補足する。
「なんか行動を起こす時って必ず説明コストが発生して、そこに立ち向かうことは絶対に大事。だと思うんですけど、何か切り出す時に説明してもダメ、伝わらない。でもやらなきゃいけない。そんな時って、やるしかないんですよ」
渋谷さんも同調する。
「自分の側の意思決定を結局信じるしかない、ですよね」
「事後報告できるってことは、その自分の選択にある程度自信を持てないとできないわけで。その自信をつけるための勉学だったり、その他色々行動したりがある。そんな感じで経験やスキルを蓄積させている人は、決断しやすいですよね」
「……なんかめっちゃいい話になってきた(笑)」
高瀬さんの言うように、大胆な決断や未知の世界へ踏み出す一歩には、自分に対する自信が必要不可欠だ。そして、その自信を得るための機会・場所、更には複雑で、絶えず変わりゆく社会を渡り歩くために必要な情報。これらが不足している、または学生まで届かないということが、高専の世界を取り巻く大きな問題の1つだった。これは、まだまだ解決したと言うことはできない。しかし、今回の討論で交わされた偉大な先輩達のやりとりは、貴重な生の情報と、そして大きな勇気を多くの高専生に与えたに違いない。
質問コーナーでは、2つの質問が4名に投げかけられた。まず1つは「モノづくりベンチャーとITベンチャーの違い」である。
質問者は、群馬県で弁理士として働いており、部品やエンジンなどを製造する、県内のモノづくりベンチャーと接することも多いのだとか。しかし、モノづくりベンチャーの取り巻く環境は厳しく、立ち上げ初期は元気でも、数年もすると資金が尽き、中には音信不通になってしまうような企業もあるのだという。
「明確に違うのは初期投資です。ITは初期メンバーの人件費だけですけど、ハードやメカだと、それにプラス材料と倉庫が必要だし。それに、時代の流れとして、IT・ソフトウェアベンチャーは利益率も高くて、成功確率も数字が出ていて、投資家のお金が集まりやすい背景もあると思います」
答える渋谷さんは、冷静な現状分析とともに未来への展望も付け加える。
「一方で、ITの世界はやれることがかなりやり尽くされているので、ハードや製造業の方にもスポットが当たるようになってくると思っています」
補足をするのは、行政としてベンチャーをサポートしている高瀬さんだ。
「製造業だと、クオリティコントロールがすごく難しくてコストもかかるんですよ。モノって壊れてしまうので、お客さんの元に届いた後のサポートだったり無償交換だったりの窓口を用意しなくちゃいけないので、ITと比べて費用が1桁2桁変わってきてしまう。つくば市では、モノづくりベンチャーに対して支援をより手厚くすることを考えてまして、できるところから改善をしていこうとしている段階です」
また、ITと製造業の違いで大きな点として、『作ったモノが売れるのか否かの検証を小さなコストで数多く回せる』ことも挙げられた。一方、3Dプリンタの登場で、ハードであっても手軽にプロトタイプを製作することが可能になっており、さらなる技術の進歩で状況は近い将来大きく変わるかもしれない。
2つ目は「起業をしようと考えたモチベーション」についてである。
質問者は金沢大学の大学院生。基本的に『モノづくりが好き』というモチベーションを強く持つ高専生がなぜ起業をしようと思ったのか。その理由を知りたい、という質問だ。
「僕の場合は、もちろんモノづくりがしたくて高専に入ったんだけど、自分よりもっとモノづくりが得意な人は周りにたくさんいたので、直接的なモノづくりはその人達にやってもらった方がいいんじゃないかと」
渋谷さんは更に続ける。
「僕は今経営者としてやってますけど、高専卒じゃない他の経営者と多分考え方・見え方が違うと思うんですよね。他にjig.jpの福野さんとかもそうだと思うんですけど、事業を回すにあたって『これ作らなくていいよね』とか『アウトソースすればよくね』みたいにはあんまりならない」
経営者の立場であっても、根底には『何かを作っている』感覚が強く残っている。更に噛み砕けば、『間接的にモノづくりをしている』とでも言うべきなのだろう。
もう1人の現役CEO、松永さんも補足する。
「実際にモノは他のメンバーが作っているんですけど、やっぱり作るだけでは足りなくて、社長として資金や人を集める仕事が必要なんです。それがあって初めてプロダクトは世に出るし、ある意味『会社を創る』仕事をしているのかも知れないです」
松永さんは創業時、『経営者として会社を大きく成長させたい』『プログラマーとしてゴリゴリコードを書きたい』といった欲求は特になかったという。『会社として作っているサービスでみんなを少しでも幸せにしたい』という思いが表にあり、経営という仕事もあくまで『作りたいモノを作るための手段』、そんな風に捉えているのかもしれない。
執筆:にしこりさぶろ〜
編集:大久保